【わたしあなたと掛け愛したい】その2

6人用掛け合い用シナリオ『No such luck!』(コメディ)
途中シリアスぶるけどただのコメディ。

【登場人物】メイン3名、悪役1名、神様2名、サブ5名
総台詞数461

フェリル:色気のない15歳少女。頭がいい設定だが特にしゃべりには関係ない。149
ジエス:幼馴染。家が占いの館だが自身はオカルトは信じない。が、詳しい。86
ラスカ:幼馴染。母が元貴族。割と裕福な家で、品がある立ち振る舞い。74
司祭:悪役。明るくうさんくさい。陰謀に関しても特に悪気はないのがタチわるい。43
ウラーハ:国を護る上位神。白銀の毛並みの巨大狼。深く設定を考えていないのでこの話ではただのチート。43
マルキュアレ:魔神。おっぱいたわわだがサテュロス的に下半身はヤギで、ウラーハよりやや下位の神様。47

町長:ふつうのおじいちゃん。5
女:教会にいるシスターのようなもの。8
モブ1:式典を見に来た女。3
モブ2:式典を見に来た男。2
モブ3:警備員。2


---

フェリルN「考古学者だった父は言った。世界には、数えきれないほどの文化があり、言葉があると。」

マルキュアレ「こんなところへ呼び出したのは誰かしら?つまらない願いなら承知しないわよ」
ウラーハ「汝、何を願う。富か、名声か、潰えぬ命か。強く祈れ神子よ、我はそれを聞き届けよう」

フェリルN「そして、その多様に広がるどの世界にも、それぞれに神がいるのだと」


フェリルN「私はくじ運がいい。
あたりでもはずれでも、確率のより低い方をひきあててしまうところが、昔からあった。
毎年この国では秋に、15歳になる少年少女から、一年に一度の祭事に舞う『神子』を選出する。
人口およそ3万人の小さな我が国に、今年15歳になる少年少女は約300人。
まずは街を選んで数を絞り、その中から病気怪我で舞えない人間を差し引いて、たった一人だけが選ばれる。
そして、小さな小さなこの街に健康な15歳は、たったの3人。」

町長「本年度、降霊の儀を執り行う神子はフェリラウルとする」(会場拍手)
フェリルN「(息を吸って)無理です!!!!」(必死)
町長「無理でもやるのです。神はそう決められました」(Cool)
フェリル「くじ引きじゃないですか!」
町長「神のお導きですぅ」(Cute)
フェリル「町長がくじ引いたんじゃないですかああ!」

フェリル「今回はもう本当に、生まれ持ってのくじ運が、思わぬ方向に振り切れてしまったようだ。」


ラスカ「よかったあ…降霊の儀(こうれいのぎ)って、一度だけ見に行ったことがあるけれど、
あのヘンテコな踊りを神殿前で踊らされるやつよね」
ジエス「神子の選出は持ち回りで今年はこの街って聞いてぞっとしたけど助かったな…」
フェリル「助かってない、全然助かってない…!私という犠牲が出た!」
ラスカ「がんばって」
ジエス「がんばれよ」
フェリル「うっ、うう…いやだ…いやだああ、おじいちゃん助けてええ」
ジエス「がんばるんじゃよフェリル…(じじいのマネ)」
フェリル「全然似てない!死んだおじいちゃんをバカにするな!」
ジエス「うるせえなコイツ」
ラスカ「駄目よジエス、フェリルのおじい様、もうちょっと顎がしゃくれてたと思うの」
ジエス「こうか?(くいっ)」
フェリル「見た目の問題じゃないわ!」
ラスカ「何にしても国民代表よ、ヘンテコな踊りの練習、見学だけなら付き合うわ!」
ジエス「俺も精一杯冷やかすからな、安心してヘンテコな踊りを踊れよ!」
フェリル「神様にお前らのこと呪ってもらえるように祈りながら踊ってやる!!」
町長「がんばるのですよフェリル、当日はわたしも祭事に参加しますからね。ヘンテコの踊り、楽しみにしています」
フェリル「揃いも揃ってヘンテコヘンテコ…」
町長「ではフェリラウルが逃げ出さないように頼みましたよ、ラスカ、ジエス」
ラスカ「かしこまりました」
ジエス「うーす」
フェリル「うっ…うう…」


(蒸気機関車)
ラスカ「ねえ、ビスケットでもどう?作ってきたんだけれど」
ジエス「うまい(すでに食べている)」
フェリル「うう…」
ラスカ「フェリル、いつまでそんな顔をしているの?
フェリル「うん…なんか、ごめんな、うち両親とも居ないし、おじいちゃんも亡くして、一人だから」
ラスカ「付添いのこと?そんなの、むしろありがたいくらいよ」
ジエス「ひとつきも家の手伝いをしなくていいなんて、神子さまさまだな。さらに金は国から出る」
フェリル「…でも」
ラスカ「もう、かわいい顔が台無しよ、そろそろ笑ったら?」
フェリル「ありがと…私を可愛いなんて言ってくれるのはラスカだけだよ…」
ジエス「目ェくさってんな」
フェリル「っ!ぐっ!この!」(数発なぐる)
ジエス「いてっ、いたい、やめろ」(数発なぐられる)
フェリル「どうせ、私なんかが舞ったって…!」
ラスカ「そう言わないで、今年から司祭様も変わられて心機一転、なんだかいい感じの式典になるかもしれないわよ」
フェリル「その雑な慰め、すっごく元気でる…」(出てない)
ジエス「そもそもなんで舞うんだ、あのヘンテコ」
フェリル「…降霊の儀は今年の農作物の豊作を感謝し、冬を無事越せるようにって
神や精霊に祈りと共に舞を捧げる。国を護る精霊は七柱(ななはしら)、
神のもとから一年交代でひと柱ずつ降りてくる。その交代式みたいなものかな」
ラスカ「さすが歴史や文化には詳しいのね」
フェリル「お父さんの影響かな…。この祭りの歴史は500年を超えて、
この国が国として成り立つ前から受け継がれてる。
七柱の交代を七回終えるとそのあと一度、主神ウラーハが地上へ下りる年があるんだよ。
実は、それが今年」
ラスカ「じゃあ節目の年なのね」
ジエス「改めてきくと非科学的だな、そういうの」
ラスカ「ジエス、おうちが占いの館とは思えない発言だわ」
ジエス「ああ実に非科学的だ。毎日毎日よくわからない恋愛ごとの恨みつらみを聞かされて、
やれ振り向いてほしい人だ、やれ呪いたい人だとか、俺が毎日せっせとハサミで切り分けてる札に
名前を書いて燃やす。その神様もそうだが、叶うと思ってるのか?ああいうのは」
フェリル「まあ、こういうお祭りはやることに意味があるんだ、神は人の心にいるものだよ。
占いだって、ひとの思念が実を結ぶこともある。札に名前を書くのも、ほら、名前は心を縛るというから」
ラスカ「意外、あなたそういうものに肯定的なのね」
フェリル「楽しめる程度にはね。それにお祭り自体は好きなんだ。
…でもその舞台に自分が立つとなると話は別じゃないか…」
ジエス「昔の人はなんであんなヘンテコな踊りを神に捧げようと思ったんだろうな」
ラスカ「昔はあのヘンテコな踊りが最先端だったのかもしれないわよ」
フェリル「落ち込むからもうやめて二人とも」


(中央都市、教会)
フェリル「…あの踊りは、昔から伝わるものじゃ、ない…?」
司祭「ええ、実は神にささげる舞はすでに失われているのです。
長い年月を下ることでいつしか踊り手が途絶えてしまったのだとか…。
古い資料にはあるのですが読み解くのも難解のようで、
近年祭りで奉納されているのは、前司祭様のお考えになったものだとか」
フェリル「そんな…」
ジエス「前司祭マジセンスねえな」
ラスカ「だめよジエス、本当のことを言っては…」
司祭「今年は50年に一度の精霊を滑る神の降臨祭!そこで!!
心機一転、なんかいい感じにしようと、私がこつこつ一年考えた舞を、あなたに踊ってもらおうと思っています!」
フェリル「はあ…、はあ?!」
司祭「今年の神子が女の子と聞いて衣装もリニューアルしました。
まさかあなたのような色気のない、…いえ、純朴でかわいらしい方とは思わず、
少しサイズを直さねばなりませんが、国一番のデザイナーにお任せしたので安心してください」
ジエス「色気がないっつったな今」
フェリル「あの、司祭様、私普通の衣装で…」
司祭「いいえ!是非!私の考えた舞を、私の理想とする衣装で!この際色気はなくてもいい!踊って頂きたいのです!」
ラスカ「もう隠す気がないのがいっそすがすがしいわ」
フェリル「う、うへえええ…」
司祭「これから式典までのひと月、この教会でお過ごしください。
なにか必要なものがあれば言ってくださいね、さあ練習あるのみですよ!」

フェリル「はあ、はあ、はあ…」
ラスカ「そこからくるくる小さく回るようにして…」
フェリル「…あああああもおおおお!!」
ジエス「どうした、司祭の手本通りには踊れてるぞ」
ラスカ「むしろフェリルが舞うことによってかなり違和感が軽減されているわ」
フェリル「なんだよ!この踊り!飛んで跳ねて腰ふってるだけじゃないか!
これをあの超ミニの衣装を着て踊れってのかあの司祭!」
ジエス「まるでショーガール」
フェリル「それ!」
ラスカ「この踊りを司祭自ら踊って見せてくださった時のあの空気、私一生忘れないと思うわ」
ジエス「やめろ思い出させんな」
フェリル「大体おかしいよ、なんか無駄にぐるぐる回るし、身振り手振りは簡単なのにステップだけが異様に難しい」
ジエス「確かに軌道が複雑だ、絵をかくみたいになってる。えーと、ほら」
ラスカ「わ、すごいわジエス。あのステップをメモしていたの?」
ジエス「おっさんの踊りを直視するのがどうしてもな」
ラスカ「そうね、目に焼き付いてるもの」
フェリル「最初に大きな円を描いて、その中をくるくる回ってる感じだよね」
ジエス「ああ…、…」
フェリル「ジエス?」
ジエス「いや、なんでも」
ラスカ「本当の踊りってどんなものだったのかしらね、少なくとも、もう少し厳かな雰囲気のものだったと思いたいわ」
ジエス「文献は残ってるんだよな」
フェリル「!!そうだ!!!」
ラスカ「…?」
ジエス「なんだ」
フェリル「その残ってる資料を漁ってさ、ちゃんとした舞を踊ろう!!」
ラスカ「…でも、そんなこと、可能かしら」
ジエス「踊りたくないのは分かる、まあ、調べるだけ調べてみるか」
フェリル「うん!!」


(書庫、資料を漁る)
ジエス「うわ、こっからあっちの棚まで全部経典かよ、すげえな」
ラスカ「歴史はあるものね、ほこりが積もってて読み返された跡がないけれど」
ジエス「さすが元は宗教国家、でも王政になってからこの類のものは放置ってところか」
ラスカ「歴史的祭事のメインイベントが失われてるくらいですもの」
フェリル「うーん…」
ラスカ「どう?フェリル、手伝えなくてごめんなさいね、どれも古すぎて私たちが見てもわからなくて」
フェリル「この広い書庫の中本がこれだけあって、舞についての書物は5冊、…大体似通ったことが書いてある」
ジエス「踊れそうか?」
フェリル「思ったよりは簡単に見えるけど、わからない部分がある。動きも書いてないし、うーん、なんだろ」
ラスカ「どれどれ…、あ、これなら舞踊でよく使う言葉だわ」
フェリル「あ、専門用語なのか!」
ラスカ「古い言葉で書かれてあるから全体は分からないけど、そうね、こういう単語なら得意よ」
フェリル「すごい、なんとかなるかも」
ラスカ「よかった」
ジエス「さすが母親が貴族の出、もうラスカが神子やればいいんじゃ、」
ラスカ「ジエス」
ジエス「なんでもない」
(ノック)
司祭「調子はどうですか?」
ジエス「エロ司祭」
司祭「あなた方が書庫で古い舞を調べていると聞いて、何か手伝えることがあればと思ってきたのですが」
フェリル「ええと、今のところ大丈夫です。なんとか舞も、全容がわかりそうで」
司祭「…そう、ですか。(びっくり)それはすごい!」
ラスカ「せっかく司祭様がお考えになった舞があるのに、なんだかすみません」
司祭「いいえ、それは。…ああ、でも」
フェリル「はい?」
司祭「死にもの狂いで考えたあの足取りだけは、古い舞に取り入れてもらえませんでしょうか…
私、とても頑張りました…」
フェリル「…あ、はい…」
司祭「本当に、一生懸命、考えました…」
フェリル「わ、わかりました…じゃあ、新旧の融合ってことで…混ぜちゃおうかな…?」
司祭「あの腰つきは…?」
フェリル「それはやらないです」
司祭「古くから伝わる舞には?」
フェリル「一切なかったです」
司祭「…残念です…あの、なにかあれば言ってくださいね、力になりますので、では」
フェリル「はい」
ジエス「……」
フェリル「どうしたの」
ジエス「…俺もちょっと調べもの」
ラスカ「ここで?こんな古い書庫、字も読めないのに」
ジエス「大したことじゃないから。そっちを手伝えるわけでもないしな」
フェリル「そうだけど、…?」
ラスカ「…まあ、二人で続けましょう」
フェリル「…うん」


(頭の中に響く声)
ウラーハ「声が、聞こえる」
マルキュアレ「呼んでいるのは誰かしら」
ウラーハ「歪ではあるが穢れのない、小さき声」
マルキュアレ「なあにこのやぼったい感じ、何の用かしら」
ウラーハ「汝、何を願うか」
マルキュアレ「そうねうまくお願いできたらひとつ叶えてあげてもいいわ」
ウラーハ「だが一つ足りぬ」
マルキュアレ「もう一つだけ足りないの」
ウラーハ「神子よ、わが力を欲するか」
マルキュアレ「さあ舞いなさい、かわいい踊り子」


(夜、ベッドルーム)
フェリル「(うなされて)……(がばっと起きる)はっ、…はあ、はあ…」
ラスカ「(寝息)ん…」
フェリル「夢か、…頭に、声が残ってる…」
ラスカ「…どうしたの、フェリル、…こんな夜中に」
フェリル「ああ、ごめん、ちょっと…嫌な夢を見ただけ」
ラスカ「夢…?」
フェリル「なんでもないよ、起こしてごめん、ラスカ」


(頭の中に響く声)
マルキュアレ「足りないわ」
ウラーハ「あと、ひとつ」
フェリル「う…」
ウラーハ「神子よ」


(朝、神殿内)
フェリル「あっという間に来てしまった…本番が…ねえ、あの、コレ、胸に綿つめる必要あります…?」
女「そうですね…司祭様曰く、」
司祭「おっぱいはでかい方がいい」
女「とのことですので」
フェリル「あのなまぐさ…」
女「さあ、衣装はこれで大丈夫です。出番の少し前にお呼びしますので、このままこちらでお待ちください」
フェリル「はい、ありがとう……はあ…」
ラスカ「入ってもいいかしら」
フェリル「ラスカ?構わないよ、どうぞ」
ラスカ「(部屋に入り)…わあ、この前も見せてもらったけど、メイクまで施すと本当に素敵ね」
フェリル「はは、ありがと…」
ラスカ「…体調は大丈夫なの?このところずっと夜うなされていたわ」
フェリル「はは…よっぽどこの本番が嫌だったのかもしれない…」
ラスカ「…そう?まあでも、今日が終われば自由の身よ。
舞だって素敵なものに仕上がったじゃない。
司祭様もお褒めくださったし、見に来る人だってびっくりするわ!」
フェリル「…うん」
ラスカ「フェリル…?」
ジエス「(開いているドアをノック)…酷い顔だな」
フェリル「ジエス。調べ物は終わったの?」
ジエス「まあ…(ドアを閉めて)」
ラスカ「珍しく歯切れが悪いわね?」
ジエス「…フェリル、舞は完成したんだよな」
フェリル「え?ああ…、できた、とおもう」
ジエス「おもう?」
フェリル「…いや、できたよ、大丈夫」
ラスカ「ジエスったら練習も見に来ないで…すごく神秘的に仕上がったわよ。
私が踊るわけじゃないけれど、きっとあなたも驚くんだから。見てなさい」
ジエス「……その舞さ、ちょっと変えられないか」
ラスカ「ええ?」
フェリル「今から?そんなの無理だよ」
ジエス「ステップだけでいい、動きをすこし変えてほしい」
フェリル「なんでまた」
ジエス「いいから」
ラスカ「直前になってなにを…」
ジエス「思い違いだとは思うんだが、あの司祭の…(ノック音でしゃべるのをやめて)」
司祭「すみません、本番前に挨拶をと思いまして、フェリルさんのお着替えはお済でしょうか」
ジエス「……」
ラスカ「ジエス?」
フェリル「…?はい、どうぞ」
司祭「(ドアをあけ)ああ!素敵ですね!実によくお似合いです!
熟していない少女の清廉さ!なんだか新しい扉を開いてしまいそうです!」
ラスカ「もう全開ですね司祭様…」
司祭「舞台も整っていますよ。照明にも動きを支持してありますので、しっかり練習通りに踊ってくださいね」
フェリル「…あ、はい」
司祭「では、私は式典に頭から出ていないといけないので、挨拶だけで…失礼しますね。
すぐにお呼びすると思います、もう少しお待ちください(出ていく)」
ジエス「……俺ちょっと(続いて出ていく)」
フェリル「え、あ、ジエス?」
ラスカ「…どう、したのかしら」
フェリル「…あんな顔、初めてみた」
ラスカ「ええ、私もよ…」


(ステージ裏)
ウラーハ「わが力を欲するならば」
マルキュアレ「舞いなさい、踊り子よ」
フェリル「う…」
女「神子様、いかがされました?」
フェリル「ん、あ、大丈夫です。ちょっと緊張して」
女「間もなく出番です、神殿の鐘の音が聞こえたら明かりが一度落とされますので、舞台の真ん中へ」
フェリル「はい…、はあ」
(鐘の音、歓声)
フェリル「…出番…!」


(客席)
ラスカ「…始まってしまったわ」
(回想:ジエス「……その舞さ、ちょっと変えられないか」)
ラスカ「あれからジエス、戻ってこなかった…一体、どこに…」
モブ1「やだ…なに?」
モブ2「人が暴れてるな」
モブ1「神子の舞の最中に?酔っ払い?」
モブ2「いや、…まだ子供に見えるけど」
モブ1「なにがあったのかしら…」
ラスカ「……、ジエス…!あの、ごめんなさい、通してください、すみません(人込みをかき分けていく)」


(舞台、舞いながら我を失っていくフェリル)
フェリルN「声が、大きくなっていく」
ウラーハ「神子」
フェリルN「この声はどこから聞こえてくる…?」
マルキュアレ「そのまま続けなさい」
フェリルN「手が、足が、勝手に動く。…ああ、まるで、自分が自分でなくなるようだ」
ウラーハ「あともう、ひとつ」
マルキュアレ「あともう、ひとつ」


(客席横、警備員に取り押さえられるジエス)
モブ3「ま、まちなさい、動くな、くっ」
ジエス「離せ!くそ、あの舞を止めろ!!」
ラスカ「(遠くから)ジエス!!!(駆け寄って)どうしたの、あなた何を…」
ジエス「ラスカ!フェリルの舞を止めてくれ!」
ラスカ「舞を?」
ジエス「どこかで見たと思った、あの足取り、方陣を描いてるんだ。うさんくさい呪術でよく使う、悪魔召喚の!」
ラスカ「呪術の…悪魔?」
ジエス「フェリルを止めろ!」
モブ3「さっきからなにを言ってるんだ!」
ラスカ「ジエス、そんな、司祭様がどうして悪魔召喚なんて」
ジエス「実際に悪魔がどうとかそんなもの関係ない、あの術の最後に必要なのは召喚者の血!フェリルが危ない!止めてくれ!!」
ラスカ「っ!!」


(舞台、鐘の音が響く)
マルキュアレ「ふふ…いいこね」
フェリルN「頭が、真っ白だ」
マルキュアレ「さあ、血を捧げなさい。踊り子の、血を」
フェリルN「血…?血を、…ささげ…る…」


(ステージ横)
司祭「そろそろか…(銃を構え)」
女「…!?司祭様?なにを、神子様に銃を向けるなど!」
司祭「…少し静かにしてください」
女「っ、司祭様、おやめください」
司祭「離せ、邪魔をするな、っ(殴りつける)」Cool
女「ぐっ」
(ステージに駆け寄るラスカにややざわつく会場)
司祭「これで完成です、さあ、その血を流しなさい」
ラスカ「フェリル!!!!」


(銃声、静まり返る場内)
フェリル「……ラ、ス…カ?」
(場内、阿鼻叫喚))
司祭「はずしたか、(銃を再び構え)…ぐっ、」
ジエス「(タックル)貴様ァっ」
司祭「チィッ!っ、(銃を構え直し、撃つ)」
フェリル「ぐあっ、う」
ジエス「フェリル!!!」
司祭「…ははは、仕損じましたか、まあいいでしょう。
踊り子の生死は関係ありません、っ、ぐ(銃を奪われ、ジエスに殴られる)」
ジエス「っ!!(銃を奪う)くそ!!」
フェリル「…っ、…肩、が…、…血、血が出てる…。
…こんなに?この血は、どこから………私の、血、じゃ、…ない…」
ジエス「おい、ラスカ!!血が、…目を開けろ、ラスカ!!!」
フェリル「…ラスカ、…いやだ、待って、どうして、いや、いやあ、ラスカァ!!」(困惑、泣いてない)


(舞台上、不穏な鐘の音)
マルキュアレ「…あら。やあね、随分なお出迎えじゃない」
フェリル「…!」
ジエス「!?」
マルキュアレ「…どのくらい振り?覚えてないわ…相変わらずマズイ空気ね」
ジエス「…悪魔、召喚…、そんなまさか、こんなことあるわけ…」
マルキュアレ「こんなところへ呼び出したのは誰かしら?つまらない願いなら承知しないわよ」
(残った人間でざわつく場内)
マルキュアレ「…雑音が多いわね、消えてくれるかしら」
(爆発、悲鳴)
司祭「は、はははは…あはははは!…言い伝えは本当だったんですね、半信半疑でした。
こんなくだらない式典、つまらない精霊信仰、弱く小さなこの国、
無くなってしまえばいいと悪ふざけのつもりが…ははははは!」
マルキュアレ「…ふふ、あなたね?あたしを呼び出したのは」
司祭「ええ…そうなりますね、本当にお目に掛かれるとは思いもしませんでしたが」


ジエス「ヤギのような角に、下半身…、あれは、魔神マルキュアレ…」
フェリル「…なにが、おこって…?」
ジエス「…フェリル、逃げるぞ」
フェリル「っ、まって、待ってジエス、ラスカが」
ジエス「俺が抱えて…、っ、フェリル!!」
フェリル「っ、ぐ、…あ…」(宙に釣り上げられる)
フェリルN「体が、勝手に浮いて…首が、絞めつけられる…!」
マルキュアレ「素敵な舞だったわ、あなたの魂、本当にきれいね…?
久方ぶりの現世にうまく力が出ないの、もう少しその血、分けてくれるかしら、かわいい踊り子さん」
(銃声)
ジエス「っ(先ほど奪った銃を撃つ)」
マルキュアレ「…あらあ?…きくと思ったのかしら…いいわね、ふふ、かわいい子…」
フェリル「(落とされる)ぅあっ…ごほっごほっ」
(銃を破壊する音)
ジエス「…ぐ、…っ」
フェリル「ジエ、ス…(首を絞められていた名残)」
ジエス「ラスカを、引きずってでもいい、連れて逃げろ、フェリル!」
マルキュアレ「ふふふ、余裕じゃない」
フェリル「そんなこと、できな…」
ジエス「頼む、…フェリ、あああああっ(締め付けられる)」
フェリル「ジエス!!!やめて、やめろォ!」
司祭「…あなたは神子として実にいい舞を見せてくれました、フェリルさん。
私の言葉通り、神聖なるこの式典で、悪魔召喚の方陣を描き、
その上…その穢れなき血で、まさか本物の悪魔を呼び出してくださるなんて」
フェリル「…私の、舞で…」
マルキュアレ「なんだか妙な踊りを踊りながらだったけどね…きれいに描けていたわ。
しっかり届いたわよ、あなたの声」
フェリル「あ、あ…」
司祭「ええ、…ご苦労様でした。ラスカさん、でしたか。
そんな目に合わせるつもりはなかったんですが、仕方ないですね、邪魔をしたのは彼女です」
フェリル「……」
ジエス「…っ、ぅ…」
司祭「彼も、まさか方陣に感づくなどとは思いませんでした…。
せっかく邪魔をしないように遠ざけておいたのに、自分から飛び込んでくるなんて、愚かな子です」
フェリル「……わたしの、せい…、私のせいで、私の…、ラスカ…ジエス、ごめ、なさ…ごめんなさ…」(泣く)
マルキュアレ「辛気臭いわねえ」
フェリル「…ラスカ、ジエス…!」(号泣)
(涙の落ちる音、鐘の音が響く)
司祭「っ?!」
マルキュアレ「…この、気配は…!!獣神、ウラーハ!」
ウラーハ「足りぬは、ひとつ……そう、神子の、涙」
マルキュアレ「……あなた、あたしをバカにしているの…?」
司祭「な、なんの…」
マルキュアレ「神を一度にふたはしら、…ゴミみたいなあなたには、少し贅沢なんじゃない?」
司祭「ヒッ、っ」(首を絞められ)
マルキュアレ「やってくれたわね、この虫けらがァ!!!」
司祭「(息をのむ、倒れる)」

(白銀の巨大な狼出現)
ウラーハ「汝、何を願う」
フェリル「白銀の、狼…こんな、大きな……」
ウラーハ「富か、名声か、潰えぬ命か」
フェリル「…あ、」
ウラーハ「強く祈れ神子よ、我はそれを聞き届けよう」
マルキュアレ「待ちなさい、その子はアンタの神子であるまえに、あたしにささげられた贄よ」
ウラーハ「……久しい顔だな」
マルキュアレ「…あのブッサイクな踊り、アンタにささげられたモンだったのね…クソ気分悪いわ」
ジエス「…ぐ、…フェリル」
フェリル「…ジ、ジエス、…ごめ、ごめんなさい、私のせいで」
ジエス「ちがう、お前が悪いんじゃない、…ラスカを、…助けてやってくれ」
フェリル「…あ…!願い、(神に向き直り)神様!!ラスカを…この子を助けて!」
ウラーハ「…助ける、とは」
フェリル「え、…あ、死、死なないように、…ええと、あの、」
ウラーハ「死から遠ざけろと」
フェリル「…そ、そう」
ウラーハ「……それは出来ない、違う願いを」
フェリル「…っ、どう、して…」
マルキュアレ「相変わらずアンタも人間もアタマが悪いのね、その茶番、もう終わらせてくれる?
今とても気が立っているの、その子をアタシによこしなさい。
…ねえ?あたしならその願い叶えてあげられるわよ。あなたの命と引き換えに、どうかしら?」
フェリル「私の」
ウラーハ「神子よ、願いを」
フェリル「……どうして、お願い、ラスカを助けて!それ以外の願いなんてない!」
ウラーハ「…神子」
フェリル「神様なんか!!…信じない…家族の居ない私にとって、ラスカは大切な、存在なんだ。
…これ以上に強い願いなんて、お前に祈る願いなんてない!!!」
マルキュアレ「…っ、ふふ、あーっははははは!いいわぁ、好きよ、あなた、名前はフェリルというの?
…契約をしましょう、アタシはあなたの願いを叶えられる」
フェリル「私の命と引き換えに、ラスカを助けて」
ジエス「…!フェリル、やめ、」
マルキュアレ「…うふふ、契約成立ね、…アタシはマルキュアレ、名前を呼んでちょうだい」
フェリル「マル、キュアレ…」
マルキュアレ「そうよ、さあ、フェリル、魂をこちらへ…」
フェリル「っ…(ぎゅっと目をつむり)」
マルキュアレ「…?フェリル?…なぜ?命が、縛れない…」
フェリル「…、え?」
マルキュアレ「なるほど、愛称かなにか?本当の名前を教えてもらえるかしら」
ジエス「だめだ、やめろ!」
フェリル「私は…フェリ、」
ウラーハ「フェリラウル」
(なんか音ならそうかな)
マルキュアレ「っ!」
フェリル「…な、」
マルキュアレ「くっ、どこまでコケに…、何で名前知ってんのよ、これもアタシをバカにするための茶番かしら?」
ウラーハ「我はこの国を守護するもの、知らぬ命はない」
マルキュアレ「大層なこと…、はっ、そんな状況判断もできないゴミ護って一体どうす、」
ウラーハ「マルキュアレ」
マルキュアレ「!!名を…、待ちなさいよ、まさ、か、何を!ウソでしょ、…っ、あああああああああああああ!!!!(退場)」
フェリル「…!!消え、た…?」
ウラーハ「フェリラウル」
フェリル「…っ(ビクッ)」
ジエス「…く、(起き上がり)」
ウラーハ「ジエシウス、動くな」
ジエス「っ、」
ウラーハ「足りぬ言葉で惑わせた、ひとの言語を使うのはもうどのくらい振りか。
まず一ついおう、ラスカラーナは頭に少し傷を負っているだけだ」
フェリル「?!」
ジエス「本当か!、っつ、」
ウラーハ「お前の方がよほどの手負いだ、動くなと言っている。
…マルキュアレは我が眷属とした、あれは神々の中でも特別素行が悪い、いい機会だろう」
ラスカ「う、…」
フェリル「ラスカ!…よかった、ラスカ…!」
ラスカ「フェリル、…っ、いたた…、…ちょ、あなた怪我して、この肩どうしたの!どうしてこんな、」
ジエス「見た目だけなら髪と服が血で染まったラスカの方がよっぽど『どうしたの』だな…」
ラスカ「ジエス!!!な、なに、なにが、ヒッ、司祭様…!(司祭が倒れているのを見て)」
ウラーハ「息絶えてはいない、だがこのままにするのも厄介だな…」
ラスカ「ひっ、…い、…いぬ…おおきな、…いぬ…っ!!」
フェリル「あ、だめだ」
ラスカ「いぬがしゃべったあああああああ!!」


(汽笛の音、駅)
ラスカ「あの、本当にごめんなさい、ちょっと、わたし、犬が苦手で…」
ウラーハ「いぬではない」
ジエス「今のそのサイズは完全に犬だな、大型犬だ」
フェリル「子犬くらいになれない?」
ウラーハ「このくらいがお前を護るのに限界の大きさなんだが…」
フェリル「いや、守るとか別に…」


(回想ここから)
ウラーハ「我にささげられた舞、見事であった。もう人の子に呼ばれることなどないと思っていたのだ」
フェリル「…まともな舞は、もう何年も踊られてなかったから」
ウラーハ「ああ…嬉しく思う。…フェリラウル、我は汝、その命運尽きる時まで傍で護ろう」
フェリル「うん……うん?」
ウラーハ「実はさきほど、マルキュアレより先にと、汝と契約を結んでしまってな」
フェリル「はい?」
ウラーハ「今思えばマルキュアレを眷属にするだけで済んだのだが、どうしたものか」
フェリル「どうしたものかとは…」
ウラーハ「人との契約は願いを叶えることでほどけるようになっている」
フェリル「うん」(わかってない)
ウラーハ「しかし先に『願いを叶えない』という願いを聞き入れてしまい、
叶えたが叶えていないという矛盾が生じた状態で契りを交わしたが故、糸がこじれてしまった」
フェリル「ほう、よくわからない」
ウラーハ「こうなると常世に汝を連れ帰るしかないわけだが、まあほんの100年のこと。
汝の命尽きるまで、傍に居て汝を護ろう」
フェリル「…??」
ジエス「思ってたより融通きかないんだな、神様って」
ウラーハ「せちがらいのはどの世界も同じよ」
ラスカ「…いぬ、フェリル、いぬ、かうの?この大きないぬ?ねえ、つれてかえるの?このいぬを?」
フェリル「ラスカ落ち着いて、パニックになりたいのは私の方」
(回想ここまで)


(駅)
フェリル「…サイズ変えられるってきいて安心したよ、ホント…汽車乗れないもん」
ジエス「並走して帰るって手も」
フェリル「汽車に乗ってる人泣いちゃうしラスカが死んじゃう」
マルキュアレ「犬に首輪はわかるわよ…でもアタシに首輪ってどういうことよ…」
ジエス「よく似合ってるぞ」
マルキュアレ「ハァ?!」
フェリル「つないでないと乗れないんだよ、ヤギ…」
マルキュアレ「そうよ、…この格好なだけでも最低なのに、首輪…」
フェリル「大人しくしててよマル」
マルキュアレ「マルってなによ!!魔神よ?アタシ!ほんとアンタ、気安すぎない?!」
ウラーハ「マルキュアレ」
マルキュアレ「ぐっ…」
司祭「ああ、フェリルさーん!(走ってくる)はあ、すみません、見送り、間に合ってよかった」
ジエス「エロ司祭…!」
司祭「な、なんですジエスさん…その目…、私、ちゃんと成熟した女性にしか興味がないですからね、大丈夫ですよ」
ラスカ「……ホントにこの司祭様が、国家転覆に至るような陰謀をたくらんでたのかしら…」
フェリル「その辺の記憶はウラーハが消したとかなんとか、…だけど、うさんくさいのはうさんくさいよね」
司祭「え?なんですか?」
フェリル「ああ、いえ…」
司祭「このたびは本当に、お疲れ様でした!もう実際全然覚えてないんですよ、私頑張りすぎちゃったんですかね!
式典、無事終わってなによりです!無事終わったかも覚えてないんですけど!祭壇ボロボロでしたしね!アハハ!」
フェリル「いや、まあ…うん、アハハ…」
司祭「え?…ああ、それにしてもフェリルさん?いつの間にそんな大きな犬と、…ヤギ、を、買ったんです?」
フェリル「これは、その…お土産っていうか…アハハ、ハハ…」
司祭「犬はともかく、ヤギなんてフェリルさんたちの街のようなクソ田舎の方がずっと安いのでは?」
ジエス「いちいちぶち込んでくるな、こいつ」
ラスカ「まあまあ…」
フェリル「まあ、私もいらないと思うんですけど…(ヤギに噛まれて)いたっ!!いたい!!」
マルキュアレ「いらないってなによ!!」
司祭「?!ヤギがしゃべった?ぐふっ(殴られる)」
ジエス「いらないってなによ!!!」
司祭「ジ、ジエスさんでしたか…あの、なぜ私は今殴られたんでしょうか…?」
ラスカ「ごまかすにしてもすこし無理があるわジエス」
ジエス「こういうのは勢いが大事だ」


(汽笛の音)
フェリル「はあ、やっと帰れる…これからの問題は山積みだけど…」
ジエス「国の守り神がその中心都市から離れて平気なのか?」
ウラーハ「問題ない」
ジエス「変なとこ雑だな」
マルキュアレ「あたしはド田舎なんてゴメンなんだけど?」
ウラーハ「我が常世に戻れない以上、その眷属である汝もまた」
マルキュアレ「最っ悪」
ラスカ「…しかし…フェリル…」
フェリル「うん?」
ラスカ「子供のころから、お祭りの後とか…そんな感じだったわよね」
ジエス「どうやってもってかえるんだっていう景品を当てるアレか」
ラスカ「そう。…なんていうか、うん…今も…」
ジエス「いや今は、相棒に犬を引き連れ都会にヤギを売りに来た田舎者…って感じ」
ラスカ「……っ、ぶっ、…く、やめて、ジエス(こらえきれず笑う)」
フェリル「好きでこんな恰好してるわけじゃないし!!」
マルキュアレ「ねえ、汽車に乗るならちょっとこれはずしなさいよ、ホント神に首輪つけるとかなめてんの?」
フェリル「っ、…なにが神だ…信じない、信じない!!」
ウラーハ「これが汽車か、中を見てみたかったのだ、中は見て回ってもいいか?」
フェリル「〜〜〜っ、ウラーハ!!おすわり!!!」

おわり。